日本の国民食、カレーライス。
その具材といえば、ホクホクのじゃがいも、甘いにんじん、そして玉ねぎが定番ですよね。
数ある野菜の中で、なぜこの3つの野菜が日本のカレーの顔となったのでしょうか?
カレーの定番野菜、じゃがいも・にんじん・玉ねぎ入りのカレー誕生の背景に迫ります。
カレーが日本にやってきた頃の話~国民食への第一歩~
カレーが日本の食卓に初めて登場したのは、明治時代初期のことです。
長い鎖国を経て開国し、西洋文化が積極的に取り入れられ始めた時期にあたります。
カレーはイギリスから伝わったとされており、当時のイギリス海軍で食べられていました。
現在私たちが食べているカレーのルーツは、イギリスで独自に発展した、小麦粉でとろみをつけた料理だと考えられています。

シチューみたいなもんやろか?
当初、日本ではこの異国の香りをまとった料理は、ごく一部の人々だけが口にできる特別な存在でした。
また当時の日本のカレーの具材構成は、現在の一般的なスタイルとは大きく異なっています。

その当時の文献やレシピを見ると、主役は高価な牛肉や鶏肉といった肉類、あるいはエビやカニのような魚介類でした。

日本最古のカレーレシピが書いてある『西洋料理指南』があんねん。当時のカレーのレシピには、カエルの肉が使われていたらしいで。
野菜はカレーに使われていましたが、特定の野菜が定番の具材ではなかったんです。

明治の初めごろのカレーいうたら、庶民が今みたいに毎日気軽に食べられるようなもんやあれへんかったんですわ。
カレーが日本の食文化に深く根付く上で不可欠だったのが、旧日本海軍での採用です。
カレーは栄養バランスに優れ、一度に大量に効率よく調理できる利点があります。
限られた船内で大勢の乗組員に食事を提供する軍隊にとって、これらの利点は非常に大きかったのです。
厳しい海上勤務にとって、まさに理想的な食事でした。
カレーは兵士たちの体力維持や、単調になりがちな船上生活における士気向上にも貢献したと言われています。
海軍内で定期的に提供され、その調理法が確立されていく過程で、日本独自のカレースタイルが形成されていきました。

1908年(明治41年)に発行された「海軍割烹術参考書」っていう海軍の料理本があるんや。もうにんじん、たまねぎ、じゃがいもが入ったカレーのレシピが載ってるんやて。
海軍で定着したカレーは、除隊した兵士たちが故郷に持ち帰ったり、軍隊を介して一般社会にもその存在が知られるようになりました。

ちょっと余談やけどな、この頃のカレー粉いうたら、イギリスから輸入しとったんやて。そやから、えらい高級品やったらしいで。ほんでな、「C&Bカレー粉偽装事件」ていうんがあって、それがきっかけで日本製のカレー粉が使われるようになったんやって。

ホンマ、偽装して売るとか、卑怯なやり方やんなぁ。

せやけど、そんなに長いこと偽装に気づかれへんかったんやから、国産のカレー粉も遜色なかったんやなぁ。この点は大したもんやで!
さらに、国産のカレー粉が使われるようになったことで、カレーは国民の間により深く浸透していったんです。
なぜ、この3つの野菜?カレー定番具材が選ばれたワケ
日本の国民食ともいえるカレーライス。
なぜ日本海軍のカレーに、にんじん・じゃがいも・玉ねぎが採用されたのでしょうか?
また、にんじん・じゃがいも・玉ねぎは、なぜこれほどまでに定着したのでしょうか?
その背景には、単なる美味しさだけでなく、実用的な理由が隠されています。

海軍がカレーにこれら野菜を採用したのには、実は理にかなった理由がありました。
主な理由は、以下の点が挙げられます。
- 栄養バランスの良さ: 当時の日本海軍では、白米中心の食事によるビタミン不足が原因で脚気が深刻な問題となっていました。カレーは、肉と野菜(にんじん、じゃがいも、玉ねぎなど)をバランス良く摂取できるため、栄養改善に効果的でした。これらの野菜は、ビタミンや食物繊維を補給する上で優れた食材です。
- 保存性と補給のしやすさ: 長期の航海を行う軍艦では、新鮮な食材の調達が難しく、保存性の高い食材が重宝されました。にんじん、じゃがいも、玉ねぎは比較的日持ちがするため、船上での保管に適していました。また、「牛肉、にんじん、たまねぎ、じゃがいも」という材料は、調味料を変えればカレーだけでなく肉じゃがなども作ることができ、補給の効率も良かったとされています。
各野菜の役割については、以下の点が理由として挙げられます。
【じゃがいも】 | |
増量と満足感の提供 | ・じゃがいもは安価で手に入りやすく、主食としての役割 ・腹持ちが良く、少ない肉でも満足感を得られるため |
とろみ付け | じゃがいものデンプン質がカレー全体にとろみを与え、一体感を出す役割も担う |
栄養補給 | 炭水化物源として、乗組員のエネルギー補給に貢献 |
【にんじん】 | |
彩り | カレーの色合いに赤みが加わり、視覚的にも食欲をそそる効果 |
栄養補給 | β-カロテン(体内でビタミンAに変換)が豊富で、乗組員の健康維持、特に夜盲症の予防にも役立ったと考えられた |
甘みと風味 | 煮込むことでにんじんが持つ自然な甘みがカレーに深みを与え、風味を豊かにする |
【玉ねぎ】 | |
甘みとコク | 玉ねぎをじっくり炒めることで出る甘みと香りが、カレーの味のベースとなり、深みとコクを与える |
旨味の引き出し | 玉ねぎに含まれる成分が、肉や他の野菜のうま味を引き出し、カレー全体の味をまとめる役割を果たす |
とろみ付け | 玉ねぎも煮溶けることで、カレーに自然なとろみを与える効果 |
これらの理由から、にんじん、じゃがいも、玉ねぎは、栄養面、実用面、そして効率面において、当時の旧日本海軍にとって理想的なカレーの具材であったと言えます。
家庭のカレーにじゃがいも・にんじん・玉ねぎが定番になった理由とは?
にんじん、じゃがいも、玉ねぎは、旧日本海軍が採用したように、それぞれの野菜が持つ普遍的な利点によって、一般庶民に広く浸透したと考えられます。
じゃがいも・にんじん・玉ねぎを使用する利点とは、
- 栄養価の高さ: 健康的な食生活に不可欠なビタミン、ミネラル、食物繊維を供給。
- 調理のしやすさと汎用性: 和洋中を問わず、煮る、焼く、炒めるなど多様な調理法に対応し、多くの料理のベースになる。
- 保存性: 冷暗所での保存が可能で、家庭での買い置きに適している。
- 価格の手頃さ: 年間を通じて比較的安価で安定して手に入るため、日常使いしやすい。
といった理由から、現代に至るまで、日本の「常備野菜」の代表格としてストックされ、さまざまな料理に使われています。

「肉じゃが」ってあるやん? カレーと一緒の野菜、使こてるやろ?

この肉じゃが、実は東郷平八郎元帥海軍大将がイギリス留学中に食べたビーフシチューが元らしいで。あの味を再現したかったんやけど、当時はワインもバターもあらへんかったから、代わりに砂糖と醤油で作ったんやないかって話があるんよ。

ほんで、最初は「甘煮(あまに)」いう名前で、軍隊のご飯として食べられとったんやって。せやけど、その「甘煮」が「肉じゃが」って名前で、食べられるようになったんは、昭和40年代の後半(1960年代の後半から1970年代くらい)からやねんて。
さらに、昭和に入り、家庭用の即席カレールウやカレールーが広く普及すると、この流れは決定的なものとなります。

多くのカレールウのパッケージには、「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、お肉を使った基本のカレー」といった具体的な調理法や材料が写真やイラストとともに記載されていました。
これにより、カレーを初めて作る人でも迷うことなくこの組み合わせを選ぶようになりますよね。
「日本のカレーの定番=この3つの野菜」という共通認識が、全国津々浦々にまで、不動のものとして深く根付いていったのです。
即席ルウの登場は、この定番具材の組み合わせがスタンダードとして確立する、極めて大きな影響力を持ったと言えます。
にんじん・じゃがいも・玉ねぎは日本固有の野菜なのか?
日本の食卓に欠かせない、にんじん・じゃがいも玉ねぎ。
カレーなど、多くの料理で活躍するこれらの野菜は、昔から日本にあったのでしょうか?
実はにんじん・じゃがいも・玉ねぎは、日本で生まれた野菜ではないんです。
それぞれ、異なる地域が原産で、日本には古くから伝来したり、明治以降に本格的に導入されたりして、日本の食文化に定着しました。
- にんじん(人参):
- 原産地: 中央アジア(現在のアフガニスタン付近)とされています。
- 日本への伝来: 16世紀から17世紀頃(江戸時代)に中国を経て東洋系の品種が伝わります。明治時代にはヨーロッパから西洋系の品種が導入されました。現在、日本で一般的に流通しているのは西洋系の品種がほとんどです。
- じゃがいも(馬鈴薯):
- 原産地: 南アメリカのアンデス高地(現在のペルー付近)です。
- 日本への伝来: 1600年前後にオランダ船によって長崎に伝わったとされています。
- たまねぎ(玉葱):
- 原産地: 中央アジアから地中海沿岸とされています。
- 日本への伝来: 江戸時代にオランダ人が長崎に持ち込んだのが最初とされています。本格的に普及したのは、明治時代にアメリカから導入された品種が北海道で栽培に成功して以降です。

じゃがいもには、「男爵」と「メークイン」という品種があんねん。東日本では煮崩れしやすい品種「男爵」、西日本では煮崩れしにくい「メークイン」が好まれてるんやて。
これらの野菜は、それぞれの地域で長い歴史を持ち、その後に世界各地に広がり、日本の食卓でも欠かせない存在となりました。
もっと自由に!日本のカレー具材
じゃがいも、にんじん、玉ねぎは、日本のカレーが国民食となる上で、歴史的、経済的、実用的な理由から定番野菜として定着しました。
しかし、現代の日本のカレーは、これらの定番野菜を大切にしつつも、具材やスタイルにおいて驚くほど多様化しています。
家庭で日常的に食べるカレーから専門店のこだわりのカレーまで、さまざまな具材が使われるようになり、日本のカレー文化は豊かに広がりを見せています。

肉類:定番の牛肉、鶏肉に加え、日本の家庭では手に入りやすく価格も手頃な豚肉が最も広く使われています。これは、日本の食文化における豚肉の消費量の多さも影響しています。ひき肉を使ったキーマカレーも、手軽な具材として一般家庭に定着しました。地域によっては、牛肉(特に西日本)や鶏肉が豚肉よりも好まれる傾向も見られます。

夏野菜: ナス、ピーマン、ズッキーニ、トマトなどは、特に夏場によく使われる人気の具材です。これらの野菜は油との相性が良いため、炒めたり素揚げしたりしてから加えることで風味が豊かになります。鮮やかな色合いは、定番野菜だけでは地味になりがちなカレーに彩りを添え、見た目にも食欲をそそります。

葉物野菜: ほうれん草は、ソテーしてから加えたり、ペースト状にしてルーに混ぜ込んだりすることで、栄養価を高めつつ色合いも豊かにします。鉄分などが豊富で、健康志向の具材としても選ばれます。苦味が少なく、カレーの味に比較的なじみやすいのが特徴です。

その他の野菜: かぼちゃ(甘みを加える)、レンコン(シャキシャキした食感)、ブロッコリー(彩りや食感)、セロリ(香り)など、家庭の好みやレシピによって様々な野菜が試されており、いろいろな食感や風味を楽しむことができます。

きのこ類: マッシュルームやシメジ、エリンギ、まいたけなど、さまざまなきのこがカレーに加えられます。きのこ類は、それ自体が持つ独特のうま味成分(グアニル酸など)がカレー全体の味に深みと複雑さを加え、豊かな香りをもたらします。また、種類によって異なる食感(プリプリ、コリコリなど)が、野菜とは違ったアクセントになります。

トッピング: カレーライスそのものに煮込む具材ではありませんが、食べる直前に盛り付けるトッピングも日本のカレー文化には欠かせません。ゆで卵や、とんかつ、エビフライといった揚げ物は特に人気が高く、カレーライスをより豪華で食べ応えのある一皿に変えます。チーズを溶かしたり、福神漬けやラッキョウを添えたりするのも、日本のカレーならではの楽しみ方です。
【まとめ】広がる日本のカレー、それでも変わらない定番野菜
日本のカレーに欠かせない野菜、じゃがいも・にんじん・玉ねぎ。
この組み合わせは単なる偶然ではなく、実用性から生まれた必然でした。
安価で手に入りやすく、保存が利くこれらの野菜は、カレーの普及を強く後押ししました。
現代では多様な具材のカレーが存在しますが、この3つの野菜は、変わらず日本のカレーの「基本」ですね。
多くの人にとってなじみ深く、安心できる「いつものカレー」の核心として、多様化が進んだ今も愛され続けています。
- 日本の食文化にカレーが深く根付く上で、旧日本海軍での採用は不可欠だった
- じゃがいも、にんじん、玉ねぎは、現代まで続く日本の「常備野菜」の代表格
- じゃがいも、にんじん、玉ねぎは外来野菜だった
- 日本のカレーは、定番野菜を継承しつつ、多様化へ
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