「今日はちょっと料理するのが面倒だな…」
そんな時、手軽でおいしいレトルトカレーは、私たちの強い味方ですよね。
温めるだけで本格的な味が楽しめるレトルトカレーは、日本の食文化に深く根付いています。
実は、世界初の市販用レトルトカレーが日本で誕生したことをご存じでしょうか?
この記事では、レトルトカレーの知られざる歴史と、それを支える高度な技術にせまります。
日本の食卓を豊かにしてきたレトルトカレーの進化は、まさに食のイノベーション。
その奥深い世界を一緒に探求してみましょう。
レトルト食品の秘密を探る : 安全・安心・長期保存の技術
「レトルト」という言葉、日常的に耳にしますが、その意味や技術について詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。
レトルトとは、オランダ語の「retort(加圧加熱処理)」に由来し、食品を密封した容器やパウチに入れ、加圧加熱殺菌した食品のことを指します。
つまり、レトルト食品とは、私たちの食卓に安全と便利さを届ける、高度な食品加工技術の結晶なのです。
レトルト食品の歴史:食品保存技術の進化
レトルト食品の歴史は、1800年代初頭のフランスにさかのぼります。
食品加工業者のニコラ・アペールが、食品を瓶に詰めて密封したことが始まりです。
加熱殺菌することで長期保存が可能になる原理を発見しました。

瓶詰めとか缶詰が発明された頃って言うたら、日本やったら江戸時代で、11代将軍の徳川家斉さんの頃やねんな。
この発見は、缶詰の発明へとつながり、食品保存の概念を大きく変えました。
そして、1900年代に入り、アメリカでレトルトパウチ技術が開発されます。
軽量で柔軟なパウチは、缶詰に比べて携帯性に優れ、宇宙食や軍用食として利用されました。
この技術が、現在のレトルト食品の基礎となっています。
レトルト食品の安全性:高温高圧殺菌の仕組み
レトルト食品の安全性は、高温・高圧・殺菌という技術によって支えられています。
食品を密封したパウチに詰め、100℃以上の高温と圧力をかけることで、ボツリヌス菌などの食中毒の原因となる細菌を死滅させます。
特に、ボツリヌス菌は熱に強い芽胞を形成するため、通常の加熱では死滅しません。
レトルト食品の高温高圧殺菌は、この芽胞をも死滅させることで、食品の安全性を確保しています。
レトルトパウチの秘密:多層構造による品質保持
レトルトパウチは、単なる袋ではありません。
光や酸素を遮断する多層構造になっており、食品の風味や栄養価を長期間保つことができます。
また、レトルトパウチは、軽量で柔軟性があるため、缶詰に比べて携帯性に優れています。
この特性は、災害時の非常食やアウトドアでの利用に最適です。
世界初のレトルトカレーは日本生まれ!ボンカレー誕生秘話
「レトルトカレーはどこの国で生まれたの?」
そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
実は、世界初の市販用レトルトカレーは、日本の大塚食品から発売された「ボンカレー」なのです。
レトルトカレー開発前夜:アメリカの技術が礎に
レトルトカレーが誕生する前、レトルトパウチ食品はアメリカで開発されていました。
1955年(昭和30年)、アメリカのイリノイ大学が缶詰に代わる保存用加工食品の研究を開始します。
缶詰は保存性に優れるものの、運搬や廃棄に課題があったためです。
1958年(昭和33年)には、米陸軍とSWIFT社が共同で試験製造を開始し、軍用携帯食やアポロ計画の宇宙食として活用されました。
1964年(昭和39年)のアポロ11号では、レトルト食品「Lunar-pack」が注目を集めます。
しかし、アメリカの一般家庭には、あまりレトルトは普及しませんでした。
冷蔵庫の普及や、オーブンを使った加熱調理が主流だったことが要因と考えられています。
また、欧米でもアメリカと同じ理由でレトルトが普及しなかったようです。
ボンカレー誕生:日本の食文化が生んだイノベーション
1968年(昭和43年)2月12日、大塚食品は世界初のレトルトカレー「ボンカレー」を発売しました。
商品名の由来は、フランス語の「BON(おいしい、良い)」です。

1964年に大塚グループが関西のカレー粉製造販売会社を引き継ぎ、大塚食品が誕生します。
当時、カレー市場は競争が激化しており、他社との差別化を図るため、新たな商品開発が求められていました。
そんな中、アメリカの専門誌でソーセージの真空パックの記事を目にした開発担当者は、
「この技術で、お湯で温めるだけで食べられる一人分のカレーを作れるかもしれない」
と考えたのです。
大塚食品は、常温での長期保存と保存料不使用を開発条件に掲げます。
そしてアメリカの技術に頼らず、独自に開発を進めました。

大塚製薬の点滴用殺菌技術を応用し、レトルト釜も自社で準備します。
しかし高温処理によるパウチの破裂など、数々の困難に直面しました。
4年の歳月をかけ、試行錯誤の末、ついにボンカレーが誕生したのです。
発売当初のパウチは2層構造で、光や酸素を通しやすく、賞味期限が短いため、販売地域は大阪圏内に限定されました。

最初はポリエチレンとポリエステルの二層構造で、ちょっと透けた感じのパウチやったんや。せやけど、パウチの中に光とか酸素が通って、中身の風味がイマイチ保てへんかった。賞味期限が夏場やったら2ヶ月、冬場でも3ヶ月しか持たへんかったんやて。
その後、3層構造のアルミパウチを採用し、賞味期限を2年間に延長。
1969年(昭和44年)5月、ついに全国発売に至ります。
しかし、発売当初は「値段が高すぎる」という声や、「保存料が入っているのでは?」という誤解もあり、普及には時間がかかりました。

高価やって言われてたんは、当時の外食のうどんが50~60円くらいで、ボンカレーが1箱80円もしたからやねん。それに「保存料入ってへん」って説明しても、「ほんまに防腐剤使ってへんのやろか?」って疑う人もおって、なかなか理解してもらえへんかったみたいやわ。
大塚食品の地道な努力が実を結び、ボンカレーは国民食として愛されるようになりました。
2022年(令和4年)には「最長寿のレトルトカレーブランド」としてギネス世界記録に認定されています。
ボンカレーの顔:初代パッケージの女性
ボンカレーの初代パッケージに描かれた女性は、女優の松山容子さんです。

1960年から1962年にかけて放送されたドラマ「琴姫七変化」で主演を務め、人気を博しました。

琴姫が悪もん退治する時に言う「許しませぬぞ!」ってセリフが、見た人らの間でめっちゃ人気になったらしいで!
ドラマのスポンサーが大塚製薬だった縁で、松山さんはボンカレーの顔として長年活躍しました。
レトルトカレーが日本に根付いた理由
日本では、ボンカレーの発売をきっかけに、様々なレトルト食品が開発され、全国に広まりました。
冷蔵庫の普及がまだ進んでいなかったことや、お湯を使った料理が一般的だったことが、レトルト食品の普及を後押ししたと考えられています。
ボンカレーから広がるレトルトカレーの世界
ボンカレーの登場以降、日本のレトルトカレー市場はどのように発展していったのでしょうか?
大塚食品以外のメーカーも次々と参入し、多種多様なレトルトカレーが誕生しました。
レトルトカレー市場の幕開け:各社の参入と競争
1970年(昭和45年)8月、S&B食品は「サンバードチキンカレー」を発売し、レトルトカレー市場に参入しました。
翌1971年(昭和46年)には、ハウス食品が「ククレカレー」を発売。
ククレカレーの名前の由来は、「Cook less(クックレス)」からきており、調理の手間を省けるレトルト食品の特徴を表現しています。
特に、年末年始に放送されたククレカレーのCMは、キャンディーズのメンバーが出演し、「おせちもいいけどカレーもね!」というキャッチフレーズが話題となりました。

キャンディーズ(伊藤蘭さん、藤村美樹さん、田中好子さん)が出とったCMのセリフ、あれはホンマ印象的やったなぁ。
テレビCMをきっかけに、レトルトカレーは一般家庭に広く認知されるようになったと言われています。
進化するレトルトカレー:飽きさせない味と最新技術
各社の参入により、レトルトカレー市場は急速に拡大しました。
定番の日本のカレーだけでなく、欧風カレー、インドカレー、タイカレーなど、さまざまな種類のレトルトカレーが開発されました。
近年では、レトルト技術の進化により、お店で食べるような本格的な味わいを再現した商品も数多く登場しています。
例えば、具材のゴロゴロ感やスパイスの風味、ソースのコクなど、細部にまでこだわったレトルトカレーが人気を集めています。
また、健康志向の高まりを受け、低カロリーや無添加、アレルギー対応など、多様なニーズに応える商品も増えています。
レトルトカレーが日本の食卓にもたらしたもの
レトルトカレーは、忙しい現代人にとって、手軽に本格的なカレーを楽しめる便利な食品です。
また、非常食や保存食としても重宝されており、日本の食文化に深く根付いています。
さらに、レトルトカレーは、日本のカレー文化の多様化にも貢献しています。
様々な地域のカレーや、専門店の味を家庭で手軽に楽しめるようになったことで、日本のカレー文化はより豊かになりました。
レトルトカレー、新たなステージへ : 電子レンジ対応技術の登場
ボンカレーの発売から35年。
2003年(平成15年)、レトルトカレーの歴史に新たな1ページが加わりました。
それは、電子レンジで直接加熱できるレトルトカレーの登場です。
電子レンジ対応レトルトカレーの登場:手軽さとエコを両立
電子レンジ対応レトルトカレーは、箱ごと電子レンジで加熱できるという画期的な商品です。

火を使わないため、誰でも安全に調理でき、手軽さも格段に向上しました。
日本における電子レンジの普及率の高さも、この技術革新を後押しした要因の一つと考えられます。
電子レンジ加熱は、湯煎に比べてエネルギー効率が高く、二酸化炭素排出量の削減にも貢献します。
環境への配慮も、レトルトカレーの進化を支える重要な要素となっています。
電子レンジ加熱の注意点:電子レンジ非対応のアルミパウチは不可
ただし、電子レンジ加熱には注意点があります。
電子レンジ非対応のアルミパウチは、電子レンジで直接加熱ができません。
電子レンジ非対応のアルミパウチのまま加熱すると、電子レンジが故障する恐れがあります。
必ず深めの皿に移し替えてから加熱してください。
電子レンジ対応レトルトカレーの登場がもたらしたもの
電子レンジ対応レトルトカレーの登場は、レトルトカレーの利便性をさらに高めました。
忙しい現代人にとって、手軽に本格的なカレーを楽しめる選択肢が増えたことは、大きなメリットと言えるでしょう。
【まとめ】レトルトカレーは日本の技術と食文化が育んだイノベーション
世界初の市販用レトルトカレー「ボンカレー」が日本で誕生してから半世紀以上。
レトルトカレーは、日本の技術と食文化が融合し、進化を遂げてきました。
アメリカで開発されたレトルトパウチ技術を基に、大塚食品が独自に開発したボンカレー。
常温長期保存と保存料不使用を実現し、日本の食卓に革命をもたらしました。
その後、S&B食品やハウス食品など、多くの企業が参入し、多種多様なレトルトカレーが誕生します。
また電子レンジ対応技術の登場は、レトルトカレーの利便性をさらに高めました。
レトルトカレーは、日本の食文化に深く根付き、私たちの食生活を豊かにするイノベーションと言えるでしょう。
- アメリカ雑誌にのソーセージの真空パックの記事がレトルトカレーの開発のきっかけ
- 1968年(昭和43年)2月12日大塚食品が、世界初レトルトカレー「ボンカレー」を発売
- 1969年(昭和44年)5月にボンカレーは全国発売へ
- ボンカレーの初代パッケージは女優の松山容子(まつやま ようこ)さんを起用
- 2003年(平成15年)電子レンジで温められるレトルトカレーを開発
- 2022年(令和4年)に「最長寿のレトルトカレーブランド」としてギネス記録で認定
参考:大塚食品HP・日本缶詰びん詰レトルト食品協会HP・TCエンターテインメント・公益社団法人発明協会
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